第9回:「アルミニウム板材の耐食性」と熱交換器のお話
2022.2.21
元デンソー認定プロフェッショナル
夢双造研究所 大原敏夫
(㈱最上インクス 技術アドバイザー)
第8回のコラムに引き続き、今回はいかにして板厚0.2mmという極薄のアルミチューブで15年もの間、孔食による貫通やガス漏れから熱交換器を守るかについてお話させていただきます。
図1の説明に入る前に金属の電位と腐食の関係についてお話します。
金属はそれぞれ電位をもっており、異種の金属が触れると電位の低い金属が優先的に腐食する性質を持っています。
例えば、亜鉛と鉄では亜鉛の電位が相対的に低いので亜鉛が優先的に腐食し、その間鉄は腐食しません。これを利用したのが船の外壁で、鉄のボディに亜鉛の塗装を施し海水からの塩害を防いでいます。亜鉛メッキ鋼板も同様に鉄板に亜鉛メッキを施して、鉄の腐食を防いでおり建築物や構造材などに多用されています。
同様に、鉄と銅では相対的に鉄の電位が低いため、これらが接触している状況では鉄が優先的に錆びていくので注意が必要です。
この原理をアルミニウム熱交換器に利用したのが図1です。
左端はアルミ芯材の表面に電位の数十mV低いアルミの薄い層を貼ることでこの層が優先的に層状に腐食している間、芯材のアルミ材は孔食から守られます。
アルミニウムの電位を低くするには主に亜鉛の添加が使われます。これを犠牲防食層と呼びます。電位差を高めるほど防食効果は増しますが、犠牲防食材の減り方が早いので寿命が短くなります。
また別の方法として図1右側に示すように、フィンの電位をチューブの電位より低くすることで、フィンを優先的に腐食させてチューブを守る方法もあります。この場合はフィンが時間とともに薄く弱くなっていきます。
これらの防食方法は熱交換器設計方針や使用される環境で使い分けられています。
次回はカーエアコンの冷風、温風を作るHVACという製品の内部構造などをお話させていただきます。HVACとはHeating、 Ventilation、 and Air Conditioningの頭文字を並べたものです。