第11回:カーエアコンのエバポレータにおける水はけ問題とその解決策のお話
2022.3.24
元デンソー認定プロフェッショナル
夢双造研究所 大原敏夫
(㈱最上インクス 技術アドバイザー)
今回はカーエアコンのエバポレータにおける水はけ問題と、その解決方法についてお話しさせていただきます。
図1はエバポレータの構造を示しています。
蛇行状のコルゲートフィンに細かいルーバ(切込み)が多数入っており、これが伝熱性能を向上させています。フィンピッチはおよそ2.5~4mmで、性能を高める場合はピッチを詰めますがその場合通風抵抗が増大することになります。
エバポレータは暖かく湿気の高い空気を吸い込んで、冷媒の蒸発潜熱を利用してその空気を冷却除湿しますので、自ずと凝縮水が発生します。その量は吸い込む空気の温度、湿度と風量によりますが、およそ1時間あたり1000~2000cc程度になります。そのためエバポレータの表面には水の膜ができ、結果フィン間を閉塞することもあります。
エアコンを止めた時に水が全部排出されることはなく、エバポレータに滞留します。その量はおよそ500cc。次のエアコン作動時に送風が開始されると一気にその水が飛び出し、エアコンの吹き出し口から水飛びという現象が起こります。また、通風抵抗の増大という問題も抱えています。
こういった問題の解決のため数多くの研究がなされてきましたが、今では図2,3に示すような水の親水性を利用して保水量を低減させることが主流になっています。
図2は通常のアルミ板の上に水滴を落とした時の水滴状態で、水玉のはじき方を接触角で定義しますが、この場合は50~60度程度になります。
図3はアルミ板に親水性の表面処理を施した表面に水滴を落とした場合ですが、接触角は20度程度になります。
この違いによりエバポレータ一台の保水量が500ccから300ccに減るくらいの効果があります。最近ではさらに超親水性の表面処理も開発され、接触角で5~10度、保水量で200ccも実現出来ています。
課題は親水膜の耐久性で長年使用していると、大気中の油分やほこりの付着により接触角は高くなっていきますので、これを解決するための表面微細構造的な検討も始まっています。
次回はカーエアコンの冷凍サイクルとその課題についてお話させていただきます。